本 『吸血鬼』 [本 *Books]
古今東西のテーマ別文学集である、“書物の王国”シリーズ(国書刊行会)の、
『同性愛』 『美少年』 『両性具有』 に引き続き、今回は 『吸血鬼』 を読みました。
欧州は勿論、中国や日本の小説や小話、論考、エッセイなどの短編をより集めた、
バラエティに富んだ内容です。
以下、私が特に気に入りました数作品をご紹介したいと思います(^^)
尚、画像及び添えました詩につきましては、本書に挿入されているものではございません。
* コリントの許嫁 * ヨーハン・ヴォルフガング・ゲーテ 竹山道雄 訳
あらすじ: 親同士が決めた許嫁同士の若い男女。
しかし、結婚を待たずに男性は亡くなり、女性は母の取り決めにより、
キリストの花嫁(出家)とされていました。
ある晩、その娘の家に、旅の途中の若い青年が泊まることになりました。
その部屋へ誤って入り込んでしまった娘は、青年と熱烈に惹かれあい契りを交わします。
実はその旅人は、墓の中から娘恋しさに逢いに来た元許嫁の男性だったのです。
****
古い文章で書かれているので、丁寧に3回くらい読まないと、
私には理解できませんでした(;^^)
しかし、古い文体には独特の優美さがあって、なかなか味わい深いものですね。
リズミカルな韻文であるということも、その要因のひとつでしょうか、
短い文章ながらとてもドラマチックです。
そして若い男女の秘めやかな“睦みごと”の描写も素晴らしい…
“恋に二人はかたく結ばれ 涙快楽(けらく)に融けあひぬ。
男の口の炎をば女渇(かつ)えて呑みほしぬ。”
格調高い、官能の香り漂う表現に感動しました。
生血を啜る吸血鬼像が定着する18世紀中頃以前は、
死霊の類とされて表されていたという歴史を感じる物語で新鮮でした。
ブロンズィーノ画 ボッティチェリ画
『ジュリアーノ・ディ・メディチ』 『シモネッタ・ヴェスプッチ』
イタリアの名家メディチ家の当主ロレンツォの弟で、
その美男ぶりでフィレンツェ中の女性を虜にしたというジュリアーノは、
やはりその美貌を謳われたシモネッタと深く愛し合っていました。
しかし、ジュリアーノはライバルのパッツィ家の陰謀で24歳という若さで暗殺され、
その後、シモネッタも若くしてこの世を去りました。
* 吸血鬼 -ある物語- * ジョン・ポリドリ 今本渉 訳
あらすじ: ロンドンの社交界で、とある紳士・ルスヴン卿の不思議な魅力に
興味を覚えたオーブレーは、彼を旅へと誘います。
しかし、行く先々での卿の言動や女性関係の噂などに不信感を抱くようになり、
更に彼は殺人まで犯す魔物であることを知るのでした。
しかしやがて、卿は旅先で客死。
失意のうちに帰郷したオーブレーの目の前に突如死んだはずの卿が現れ、
オーブレーを恐怖の淵へ陥れます。
****
英国の、名高いロマン派詩人であるバイロンの『断章』に基づいた作品で、
本書にはその両方が掲載されていますので、読み比べることができました。
『断章』では、ダーヴェル(ルスヴン卿)を埋葬するまでしか書かれていませんが、
ポリドリによるこの小説では、更に戦慄が走るような血に飢えた卿の本性や、
オーブレーの痛ましい狂態ぶりが描かれています。
この作品は、故意か過失かバイロンの名で出版され大反響を巻き起こしました。
現在の小説や映画における吸血鬼象は、18世紀末~19世紀初めにかけて
ヨーロッパを席捲したロマン派思潮の中から生まれたものだそうで、
この作品もそんなロマン派吸血鬼の爛熟期に書かれたというところも、
もてはやされた理由の一因となっているのでしょう。
ポリドリはバイロンの侍医でしたが解雇されており、26歳という若さで亡くなっています。
そして興味深いのは、この物語の登場人物のルスヴン卿が、
バイロンを彷彿とさせるという見解です。
なるほどバイロンの英国の社交界での人気ぶり、美青年ぶり、
そして多くの女性と浮名を流したあたりもよく似ています。
また、バイロンも参戦で赴いたギリシャで亡くなっていますから、
異国の地で客死している点も一致しています。
『断章』よりも、ポリドリの作品にそれが顕著であるということからも、
やはり、作者がバイロンを想って書いたものなのではないでしょうか。
バイロンを妖美な吸血鬼という魔性の姿で描いたところに、
憧れと憎しみが入り混じる複雑な心境をみてとることができて、感慨深いものがあります。
『バイロン』
1788年イギリス生まれの男爵で詩人。
長編物語詩『チャイルド・ハロルドの遍歴』が大成功を収めるも、
私生活の悪評が元で、母国を去らざるを得ず、流浪の生活を送るようになります。
後にギリシャ独立戦争へ参戦し1824年に熱病で亡くなりました。
* 月のさやけき夜 * M・W ウェルマン 紀田順一郎 訳
あらすじ: アメリカの詩人、小説家のエドガー・アラン・ポーを主人公に仕立て、
彼が住む街での“墓から死体が生き還った”という奇怪な事件を追ううちに、
ついには吸血鬼退治をするという物語。
****
幻想的で怪異な詩を書くポーが、蘇生譚に興味を持つというのは自然だと思いますが、
正義感から吸血鬼を退治してしまうというところが意外性があって面白かったです。
また、その退治方法から『黒猫』を着想するというオチつきです(;^^)
私はこの好奇心旺盛な、正義感のあるポー像に親しみやすさを感じてとても気に入りました(*^^*)
…しかし、賛否両論あるでしょうね。
『フィリップ・ポの墓』
- 婦人は眠る! ああ、いつまでも続く
彼女の眠りの深くあれよ、天はその浄らかな処にかくしまえよ、
…
私は神にいのる、永遠に 眼(まなこ)をとじて臥していることを -
エドガー・A・ポー “死美人” より部分
* 仮面舞踏会 * オーガスト・ダーレス 森広雅子 訳
あらすじ: ある晩のこと、マリラとその弟は、通りすがりにみつけた
古い屋敷での仮面舞踏会へ、“ドラキュラ”伯爵夫妻”と扮して押しかけることにしました。
互いにお気に入りのお相手をみつけたふたりは、
それぞれ恋の駆け引きの楽しみに耽ります…。
****
口語体の文章で、テンポよく展開されてゆき、
舞踏会の華やぎが伝わってくる作品でした。
また、互いに交わされる会話は、チャーミングな登場人物たちの、恐るべき本性を
チラチラと垣間見せながらとてもウィットに富んでいて小気味が好いのです。
あっけらかんとした中に、キラリと光る残虐性がとても魅力的でした(*^^*)
フラゴナール画 『内緒の接吻』
* 夜ごとの調べ * スタニスラウス・エリック・ステンボック伯爵 加藤幹也 佐藤弓生 訳
あらすじ: 教養と気品を備えた魅惑的な旅の紳士・ヴァルダレク伯爵は、
ある一家に巧みに取り入り、屋敷に居つくようになると、
その平和な家族の団欒の灯を吹き消し、永遠にその幸福を葬り去ってしまったのでした。
****
作者のステンボック伯は1860年エストニア生まれの貴族で、
彼が生き、著作したあたりの時代から、吸血鬼による吸血行為は、
単なる食事という範囲から、更に恋愛の域に踏み込んできたということであり、
しかも性別を超えてそれ描かれるようになってきたらしく、
この作品も、同性愛、少年愛の匂いを漂わせています。
ジロデ=トリオゾン画 『若きロマンヴィル・トリオゾン』
「(ゲイブリエル)はわたくし以外の人間に、髪に櫛を入れさせようとは
決していたしませんでした。
そしてそのような弟の優美さをいかが言い表しましたものでしょう、
まさしく愛神の弓(アナルク・ダムール)を象った口許の愛らしさ。」
良家の令嬢が、慈しんだ美しい弟の姿と、一家に起こった惨劇を、
淡々と語る形式で書かれています。
哀れ、幼いゲイブリエルは、陶酔と煩悶のうちのヴァルダレク伯によって、
夜ごとその生命力を少しずつ奪われてゆくのでした。
麗しいショパンの夜想曲が響き渡る部屋で…
その他、この本には、ボードレールやポオ、
そして森鴎外や芥川龍之介による翻訳の作品、
また、現在の吸血鬼=ドラキュラという代名詞を定着せしめた小説を発表した
ブラム・ストーカーによるものなどの名作が収められています。
しかし、私は隠れた名著とも言うべき、あまり多くには知られていないと思われる
作家たちのものに心惹かれました。
それから、菊地秀行さんによる、吸血鬼映画の論考も面白かったです。
例えば、菊地さんが名作吸血鬼映画の第一号だと仰る、そして私もその幻想的な映像に
釘付けになった覚えのある『ノスフェラトゥ』や、ホラー映画で多くのファンを持つという
ハマーフィルムの作品など様々な映画を列挙して下さっていて、とても参考になりました(^^)v
ハマー・フィルム怪奇コレクションDVD-BOX ~吸血!モンスター編~
- 出版社/メーカー: エスピーオー
- 発売日: 2002/11/08
- メディア: DVD
『I Love モーツァルト』 石田衣良 [本 *Books]
今年はモーツァルト生誕250周年ということで、ゴールデンウィークには、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンという音楽祭が行われたりと話題になっていましたので、私ももう少しモーツァルトについて知りたいと思いこの本を買いました。
モーツァルトについては、ザルツブルクの生家も訪れたし、映画『アマデウス』も観たし、アリアはいくつか聴くのですが、交響曲やらピアノ協奏曲などは殆ど聴いたことがなく、CDも持っていなかったのです。
なので、何から聴いたらよいのか、どの曲のCDを買ったらよいのか分かりませんでした。
しかし、この本には“石田衣良セレクション”なるCDが付いていて、その中に私にとって「これだ!」と思う曲が幸いにも入っていたのです。
それは、交響曲第25番 第一楽章、 映画『アマデウス』で流れていた曲でした。
“ラクリモサ”なら覚えていたのですけれどね、何故かこれを忘れていました><
本書によりますと、モーツァルトの曲は大部分が「長調」という明るく楽しい調子のものなのだそうですが、私がピンと来た25番は「短調」という暗く哀しいムードのもの…
そういえば、好んで聴くのもワグナーとかマーラーとか、重~くて暗~いのが多いです…
まあ、とにかくその曲が入ったCDを買おうと思い、自分なりに考えたのが、カール・ベーム指揮、ベルリンフィル、そしてレーベルはドイツ・グラモフォン …コテコテですな(笑)
そんなのあるかな~と思っていたら、あっさりみつかりました。
収録曲も、お目当ての第25番の他、第29番、そして第31番“パリ”、と、ミーハーな私のためにあるようなCDです yay !
しかし、超一流の演奏は確かに素晴らしいのだけれど、第25番第一楽章(アマデウスの曲)に関しては、聴いた瞬間から違和感がありました。
疾走感が無いんですよね、テンポも遅いですし。
上品にまとまって壮大ではありますが、面白味がないというのでしょうか。
それに比べて、この本の付録のCDのものは、聞いたことのない指揮者やオーケストラだけれど、とても生き生きとしていて、モーツァルトがこの曲を16歳で書き上げたという背景を考えると、若々しくて青春期らしい不安定な感覚に溢れていて、こちらの方が解釈が合っているような気がします。
必ずしも一流といわれる演奏が心を打つとか、自分に合っているとは限らないものなのですね。
さすがはモーツァルトを“愛している”と仰る石田さんのセレクトされた曲だなという感じです。
ここまでに辿りつくにはそうとうの時間を費やしたことでしょう。
その他、この石田さんセレクションCDの中には、誰もが一度は聴いたことがあると思われる、交響曲第40番や、オペラ『魔笛』の“夜の女王のアリア”など、全10曲が収められています。
本の内容は、石田さんがモーツァルトを聴き始めたきかっけ、クラシックで女性を口説こうという提案(;^v^)など、いかに生活にクラシックを取り入れるか、又、CD収録曲についての解説とともに、音楽に関する雑学…とは言い切れないような知識を得ることができます。
そしてモーツァルトの生涯についても、絵つき写真つきで分かりやす書かれており、知られざるエピソードに触れることで、曲の鑑賞が一層味わい深いものになってくるのでした。
モーツァルトを、延いてはクラシックをもっとカジュアルに楽しんで欲しいという石田さんの情熱が、穏やかに伝わってくる読みやすくて素敵な本ですので、モーツァルト初心者の方々は気軽に読まれてみてはいかがでしょうか♪
尚、先日行われた音楽祭“ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン”は、6/4(日)の夜にTVで放送されるそうです。
詳しくはこちらをご確認下さい。→ http://www.nhk.or.jp/art/
本 『愛の話 幸福の話』 美輪明宏 [本 *Books]
最近、TV番組やCMで大人気の美輪明宏さん。
彼の著書を読もうと思って書店に行ったのではなくて、いつものように、男性(!)ファッション雑誌のコーナーを散々見てまわった後、気がついたら、普段は殆ど読むことの無い有名人のエッセイのコーナーに立っていたのです。
…きっと、守護霊さまがこれを読むようにと私に示されたのね。(←実は思い切りTV番組に影響されてるらしい)
美しく、強く、幸福に生きること、上質な女性になること、自分を磨くことのヒントが詰まった内容です。
全ては心がけ次第、…漠然とそれは分かってはいてもなかなかできるものではないのですよね、
この本では具体的にその方法を教えてくれています。
しかし、事細かに示しているわけでないので、あとは個人個人が自分なりに考えて工夫していくものだと思います。
それが個性となって、その人だけの魅力を放つことになるのでしょう。
それに加えて、瀬戸内寂聴さんや、ミッチーこと及川光博さんとの対談も収録されていますが、私が一番感動したのは、作曲家の池辺晋一郎さんとのものです。
黒澤明監督の映画の音楽を何度も担当するなど、彼は素晴らしい経歴の持ち主なのですね、そして、音楽はもちろん建築や映画のことにも詳しいようですし、音楽と文化との関係を語っているところは壮大なヴィジョンをお持ちだと感心してしまいます。
詳しいだけではなく、得た知識を自分の中で加味して、自分自身の意見を持っていること、それこそが本当に頭のいい人、魅力のある人なのだということを教えられました。
“日曜の夜の音楽番組に出ている、駄洒落好きのおじさん”から、知的でユーモアがあってロマンチックな素敵なおじ様にイメージが変わりました(笑)
美輪さんも彼が大好きみたいです、やりとりからそれが窺えました。
また、美輪さんと親交のあった、作家の寺山修司や三島由紀夫さん、そして画家の東郷青児さんや中原淳一さんのエピソードも興味深かったです。
特に中原さんは、美しいイラストを描かれるだけではなくて、その絵の中に、“日本の女性が美しく賢くあるために”という願いを込めていたということを聞いてとても感動しました。
生活のためだけではなく、自己満足のためでもなく、日本の女性のためにと心を込めて描かれたなんて、崇高で素晴らしい精神だと思うのです。
その美意識を日本女性として受け継ぐべく、魅力的な女性になるよう、日々精進したいと思います(^^)
中原淳一さんのサイト→ http://www.junichi-nakahara.com/
本 『美少年』 [本 *Books]
美少年を讃えた詩や小説の短編集。
コクトーやユルスナール等の外国の文学者のものの他、井原西鶴、江戸川乱歩、三島由紀夫などの日本の文豪の作品も多く収録されています。
“美人薄命”ならぬ”美少年薄命”…と言いたくなるような物語が多いです。
又、同性愛(男性同士)を描いたものがほとんどで、その美しい世界に浸っていると、自分が女性に生まれてきたことがなんともつまらないことのように錯覚してしまい、軽い嫉妬さえ感じてしまうのでした。
以下は特に心に残った作品です。
* ソネット第18番 * ウィリアム・シェークスピア 吉田健一訳
情熱的という風でなくて、穏やかに淡々とその”美しいひと”を讃えている感じ。
そして、最後の一行は、勝ち誇ったような、また、予言めいているように聴こえます。
* 美少年 * 岡本かの子
入院中の山の手のお嬢さんと、江戸の下町に住む美少年の物語。
類まれなる美貌を武器に、生きてゆこうとしながらも、本当の自分を見出すことが出来ない矛盾を抱えた少年…
その苦悩を受け止めてあげることができなかった少女…
“牡丹桜”が散りゆく季節がめぐり来る度に、少女は少年を思い出すのでしょう。
江戸の下町の夕暮れ時が目に浮かぶような描写が素晴らしい作品です。
* ナルシス * ライナー・マリア・リルケ 富士川英郎訳
リルケがナルシスについて書いた二つの詩のうちのひとつ。
ナルシス(ナルキッソス)はギリシャ神話で、水に映った自分の姿に恋して死に、水仙の花に化したという美少年。
ナルシス→ナルシスト から来るうぬぼれのイメージは消え、そのさだめに哀感が湧いてくる美しい詩です。
* プトレマイオスの美童 * アイリアノス『ギリシア奇談集』 松平千秋・中務哲郎訳
大好きなアレキサンダー大王のお友達・プトレマイオスのお話ということで興味津々でしたが、ストーリーにはあまり魅力を感じませんでした。
しかし、プトレマイオスにも寵愛した美少年がいたのですね。
そして思わず、アレキサンダー大王亡き後、彼に愛されたバゴアスは、プトレマイオスのもとで暮らしたと聞いたけれど、その後どんな方に愛されたのかしら~と思いを馳せてしまいました。
* 金色の蛇 * 森茉莉
私が一番気に入った作品で、この本を買って本当によかった!と心から思いました。
裕福な男性・クロオドに見初められた美少年・ジェニが、その愛欲(あるいは肉欲?)に溺れて、男性の妻に残酷な仕打ちをするという物語。
作者の森茉莉さんは、森鴎外の娘さんだそうで、とにかく文章が生々しくて官能的です。
決して下卑た言葉は使っていませんが、思わず顔が熱くなってくるほどなのです。
例えば…クロオドがジェニに初めて会い、その体を眺めまわす時の独白…
「…しかも、体は少年だ。歯ごたえのある…青い果物。
水蜜桃のような処女(きむすめ)なんぞは豚に喰わせるがいい。…」
↑ ええ~!? もったいない!(←違)
あ、この文章は少々下品ですが(;^^)、全体はそんなことはありません、そしてもっと官能的です(*ぽ*)
美少年はジェニ(又はジェジェ)とフランス人の名前で呼ばれていますが、本名から実は日本人のようです。
東洋風の容姿と”金色の蛇”という題名から、又、文章から窺えるしなやかなジェニの肢体を想像した時、ディオールの広告に出ていたモデルのTell Carlsonが思い浮かんでなりませんでした。
Tell Carson
Dior Homme by Hedi Slimane
SS 2004 campaign with Tell Carlson
* 美少年 * ダフネ・デュ・モーリア 吉田誠一訳
ある英国紳士の、休暇で訪れたヴェニスでひとりの美少年と交流したひと夏の想い出。
解説によりますと、やはり、トーマス・マンの『ヴェニスに死す』のパロディだそうです。
しかし、マンのそれとは違って、英国紳士は戸惑いながらも少年と言葉を交わし、楽しい日々を過ごします。
その様子は微笑ましく、ユーモラスでさえありますが、思いがけない結末が待っていました。
悲しいのやら、シニカルなのやら…どう気持ちを収めたらよいのか分からない作品でした。
* 艶容万年若衆 * (はですがたまんねんわかしゅ) 三上於兎吉
オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』の翻案。
ドリアン・グレイは勿論のこと、画家とその友人、幼稚で無邪気な恋人などの登場人物や、主人公の皮肉な最期まで、ほぼワイルドの作品と同じです。
本作では元禄時代が舞台となっており、美少年の涼しげで美しい着物姿、艶やかな黒髪、ま白で細い手と指、優雅な物腰…というような描写からは浮世絵を思い浮かべてしまいます。
この作品を始め、多くの日本の作家たちによって古くから美少年を題材にした物語が書かれていたのだということを、この本によって知りました。
また、古い言葉で書かれている為、初めて聞く言葉や文章が多かったにもかかわらず、漢字や前後の文章から理解できてしまう自分にも少々驚き、やはり自分は日本人であるのだな~と実感したとともに、日本語とはなんと美しいのだろう!と感動&再認識したのでした(^v^)
本 『同性愛』 [本 *Books]
ラシルド著の『アンティノウスの死』が収められていたため購入したのですが、その他の短編集、詩、エッセイ、学術的なものまで載っていて、どれも興味深くて素晴らしい本でした。
以下は、特に印象に残った作品です。
* 恋の刺客 ―ハルモディオスとアリストゲイトーン― * 大沼忠弘
古代ギリシャのポリスにおける、少年愛(同性愛)が社会的にどのようなものであったのかがよく分かりました。
ハルモディオスとアリストゲイトーンという二人の青年&少年の恋愛悲劇の、事実から神話へと変わっていった過程を検証してゆきます。
* コリュドン ―ウェルギリウス『牧歌』より― * 河津千代 訳
羊飼いの少年コリュドンが、ご主人のお気に入りの美しい少年・アレクシスを想って歌った詩。
決して叶わない想いを切なげに、或いは優しく問いかけるように、しかし時には傲慢とも言える言葉を交えているところなど、少年らしくて可愛らしいです。
* アンティノウスの死 * ラシルド
アンティノウスは、ローマの五大賢帝のひとり、ハドリアヌス帝に寵愛された美少年で、ナイル川で溺れて夭折してしまいました。
この作品は、皇帝とアンティノウスの対話形式となっていますが、皇帝の何かに怯えたような錯乱しているようなものの言い方に対して少年の慰めるような言い方から、少年が溺死した後に、皇帝が妄想で会話をしているもののようです。
皇帝の悲痛な叫びが伝わってきます、おいたわしや~(;。;)
* 白書 * ジャン・コクトー 江口清 訳
詩人、小説家、映画製作も手がけた芸術家ジャン・コクトーが、自身の恋愛を赤裸々に語っています。
彼の経験は実にドラマチックで、それは神様が稀有な才能をさらに伸ばすために与えたものなのではないか?と思ってしまうほどでした。
* 岩津々志 * 北村季吟 須永朝彦 訳
奈良、平安時代から江戸時代まで、僧侶は美しい稚児を愛しむ習慣があり、僧門は同性愛を黙認していたそうです。
彼らの恋愛の小話と共に、恋心を詠った和歌も載っているのですが、和歌のほうは私には内容が分かりませんでした(;^^)
もう少し分かり易い訳を付けていただければ、もっと楽しめたと思います。
愛しい人へ想いを歌に詠んで贈り、返歌をしたという当時の習慣とはとても美しくて素敵だなと思いました。
* 義しき男われを嗣ぐべし * 相澤啓三
(多分)古代ギリシャにおける念者(若い男性を囲った成熟した男性)が、若者(その男性の若い恋人)が、さらに若い少年と寝ているところを見た様子を詠ったもの。
自分の恋人(若者)が少年と共に寝ている姿を見て、嫉妬に狂うどころか、彼にも自分がかつてそうしたように少年を教育せよ、という姿勢がなんと高潔なのでしょう!
若者が成長したことを悟った念者は、同時に自分にかすかな老いをも感じたのではないだろうかを思わせる哀愁も漂っています。
* 朝雲 * 川端康成
ある女性教師に想いを寄せる女学生のお話。
文章も登場人物も清々しくて美しく、読み終えてとても爽やかな気分でした。
…あれは恋だったのか憧れだったのか…
自分自身にも問いかけたくなるような、どこか懐かしい香りのする物語です。
* 同性愛の経済人類学 * 栗本慎一郎
日本における同性愛の歴史から、世界中の例えばアフリカの○○族などの現状まで、幅広く知ることが出来ました。
その他、犯罪史上最も悪名高きジル・ド・レエについてのエピソードや精神分析も興味深かったです。
* 解題 * 須永朝彦
この本に収められている物語の簡単な解説の他、邦訳されている同性愛を扱った世界の主な作品を挙げて下さっています。
主なところでは…『ソドムの百二十日』 マルキ・ド・サド著
『失われたときを求めて』 マルセル・プルースト
『ヴェニスに死す』 トーマス・マン
『知と愛』 ヘルマン・ヘッセ
『モーリス』 E・M・フォースター