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本 『吸血鬼』 [本 *Books]

吸血鬼

吸血鬼

  • 作者: エドガー ポオ
  • 出版社/メーカー: 国書刊行会
  • 発売日: 1998/11
  • メディア: -


古今東西のテーマ別文学集である、“書物の王国”シリーズ(国書刊行会)の、
『同性愛』 『美少年』  『両性具有』 に引き続き、今回は 『吸血鬼』 を読みました。

欧州は勿論、中国や日本の小説や小話、論考、エッセイなどの短編をより集めた、
バラエティに富んだ内容です。

以下、私が特に気に入りました数作品をご紹介したいと思います(^^)
尚、画像及び添えました詩につきましては、本書に挿入されているものではございません。

* コリントの許嫁 *  ヨーハン・ヴォルフガング・ゲーテ  竹山道雄 訳

あらすじ: 親同士が決めた許嫁同士の若い男女。
しかし、結婚を待たずに男性は亡くなり、女性は母の取り決めにより、
キリストの花嫁(出家)とされていました。
ある晩、その娘の家に、旅の途中の若い青年が泊まることになりました。
その部屋へ誤って入り込んでしまった娘は、青年と熱烈に惹かれあい契りを交わします。
実はその旅人は、墓の中から娘恋しさに逢いに来た元許嫁の男性だったのです。
                         ****
古い文章で書かれているので、丁寧に3回くらい読まないと、
私には理解できませんでした(;^^)
しかし、古い文体には独特の優美さがあって、なかなか味わい深いものですね。

リズミカルな韻文であるということも、その要因のひとつでしょうか、
短い文章ながらとてもドラマチックです。

そして若い男女の秘めやかな“睦みごと”の描写も素晴らしい…

“恋に二人はかたく結ばれ 涙快楽(けらく)に融けあひぬ。
男の口の炎をば女渇(かつ)えて呑みほしぬ。”

格調高い、官能の香り漂う表現に感動しました。

生血を啜る吸血鬼像が定着する18世紀中頃以前は、
死霊の類とされて表されていたという歴史を感じる物語で新鮮でした。


ブロンズィーノ画                 ボッティチェリ画
『ジュリアーノ・ディ・メディチ』          『シモネッタ・ヴェスプッチ』

イタリアの名家メディチ家の当主ロレンツォの弟で、
その美男ぶりでフィレンツェ中の女性を虜にしたというジュリアーノは、
やはりその美貌を謳われたシモネッタと深く愛し合っていました。
しかし、ジュリアーノはライバルのパッツィ家の陰謀で24歳という若さで暗殺され、
その後、シモネッタも若くしてこの世を去りました。

* 吸血鬼 -ある物語- *  ジョン・ポリドリ  今本渉 訳

あらすじ: ロンドンの社交界で、とある紳士・ルスヴン卿の不思議な魅力に
興味を覚えたオーブレーは、彼を旅へと誘います。
しかし、行く先々での卿の言動や女性関係の噂などに不信感を抱くようになり、
更に彼は殺人まで犯す魔物であることを知るのでした。
しかしやがて、卿は旅先で客死。
失意のうちに帰郷したオーブレーの目の前に突如死んだはずの卿が現れ、
オーブレーを恐怖の淵へ陥れます。
                       ****
英国の、名高いロマン派詩人であるバイロンの『断章』に基づいた作品で、
本書にはその両方が掲載されていますので、読み比べることができました。

『断章』では、ダーヴェル(ルスヴン卿)を埋葬するまでしか書かれていませんが、
ポリドリによるこの小説では、更に戦慄が走るような血に飢えた卿の本性や、
オーブレーの痛ましい狂態ぶりが描かれています。

この作品は、故意か過失かバイロンの名で出版され大反響を巻き起こしました。
現在の小説や映画における吸血鬼象は、18世紀末~19世紀初めにかけて
ヨーロッパを席捲したロマン派思潮の中から生まれたものだそうで、
この作品もそんなロマン派吸血鬼の爛熟期に書かれたというところも、
もてはやされた理由の一因となっているのでしょう。

ポリドリはバイロンの侍医でしたが解雇されており、26歳という若さで亡くなっています。
そして興味深いのは、この物語の登場人物のルスヴン卿が、
バイロンを彷彿とさせるという見解です。
なるほどバイロンの英国の社交界での人気ぶり、美青年ぶり、
そして多くの女性と浮名を流したあたりもよく似ています。
また、バイロンも参戦で赴いたギリシャで亡くなっていますから、
異国の地で客死している点も一致しています。

『断章』よりも、ポリドリの作品にそれが顕著であるということからも、
やはり、作者がバイロンを想って書いたものなのではないでしょうか。

バイロンを妖美な吸血鬼という魔性の姿で描いたところに、
憧れと憎しみが入り混じる複雑な心境をみてとることができて、感慨深いものがあります。


『バイロン』

1788年イギリス生まれの男爵で詩人。
長編物語詩『チャイルド・ハロルドの遍歴』が大成功を収めるも、
私生活の悪評が元で、母国を去らざるを得ず、流浪の生活を送るようになります。
後にギリシャ独立戦争へ参戦し1824年に熱病で亡くなりました。

* 月のさやけき夜 *  M・W ウェルマン  紀田順一郎 訳

あらすじ: アメリカの詩人、小説家のエドガー・アラン・ポーを主人公に仕立て、
彼が住む街での“墓から死体が生き還った”という奇怪な事件を追ううちに、
ついには吸血鬼退治をするという物語。
                     ****
幻想的で怪異な詩を書くポーが、蘇生譚に興味を持つというのは自然だと思いますが、
正義感から吸血鬼を退治してしまうというところが意外性があって面白かったです。

また、その退治方法から『黒猫』を着想するというオチつきです(;^^)

私はこの好奇心旺盛な、正義感のあるポー像に親しみやすさを感じてとても気に入りました(*^^*)
…しかし、賛否両論あるでしょうね。


『フィリップ・ポの墓』

- 婦人は眠る! ああ、いつまでも続く
彼女の眠りの深くあれよ、天はその浄らかな処にかくしまえよ、

私は神にいのる、永遠に 眼(まなこ)をとじて臥していることを -

エドガー・A・ポー   “死美人” より部分

* 仮面舞踏会 *  オーガスト・ダーレス  森広雅子 訳

あらすじ: ある晩のこと、マリラとその弟は、通りすがりにみつけた
古い屋敷での仮面舞踏会へ、“ドラキュラ”伯爵夫妻”と扮して押しかけることにしました。
互いにお気に入りのお相手をみつけたふたりは、
それぞれ恋の駆け引きの楽しみに耽ります…。
                    ****
口語体の文章で、テンポよく展開されてゆき、
舞踏会の華やぎが伝わってくる作品でした。
また、互いに交わされる会話は、チャーミングな登場人物たちの、恐るべき本性を
チラチラと垣間見せながらとてもウィットに富んでいて小気味が好いのです。
あっけらかんとした中に、キラリと光る残虐性がとても魅力的でした(*^^*)


フラゴナール画 『内緒の接吻』

* 夜ごとの調べ *  スタニスラウス・エリック・ステンボック伯爵 加藤幹也 佐藤弓生 訳         

あらすじ: 教養と気品を備えた魅惑的な旅の紳士・ヴァルダレク伯爵は、
ある一家に巧みに取り入り、屋敷に居つくようになると、
その平和な家族の団欒の灯を吹き消し、永遠にその幸福を葬り去ってしまったのでした。
                      ****
作者のステンボック伯は1860年エストニア生まれの貴族で、
彼が生き、著作したあたりの時代から、吸血鬼による吸血行為は、
単なる食事という範囲から、更に恋愛の域に踏み込んできたということであり、
しかも性別を超えてそれ描かれるようになってきたらしく、
この作品も、同性愛、少年愛の匂いを漂わせています。


ジロデ=トリオゾン画 『若きロマンヴィル・トリオゾン』

「(ゲイブリエル)はわたくし以外の人間に、髪に櫛を入れさせようとは
決していたしませんでした。
そしてそのような弟の優美さをいかが言い表しましたものでしょう、
まさしく愛神の弓(アナルク・ダムール)を象った口許の愛らしさ。」

良家の令嬢が、慈しんだ美しい弟の姿と、一家に起こった惨劇を、
淡々と語る形式で書かれています。

哀れ、幼いゲイブリエルは、陶酔と煩悶のうちのヴァルダレク伯によって、
夜ごとその生命力を少しずつ奪われてゆくのでした。
麗しいショパンの夜想曲が響き渡る部屋で…

ショパン:夜想曲全集I

ショパン:夜想曲全集I

  • アーティスト: ルービンシュタイン(アルトゥール), ショパン
  • 出版社/メーカー: BMG JAPAN
  • 発売日: 1999/11/20
  • メディア: CD

ショパン:夜想曲全集II

ショパン:夜想曲全集II

  • アーティスト: ルービンシュタイン(アルトゥール), ショパン
  • 出版社/メーカー: BMG JAPAN
  • 発売日: 1999/11/20
  • メディア: CD

その他、この本には、ボードレールやポオ、
そして森鴎外や芥川龍之介による翻訳の作品、
また、現在の吸血鬼=ドラキュラという代名詞を定着せしめた小説を発表した
ブラム・ストーカーによるものなどの名作が収められています。

しかし、私は隠れた名著とも言うべき、あまり多くには知られていないと思われる
作家たちのものに心惹かれました。

それから、菊地秀行さんによる、吸血鬼映画の論考も面白かったです。
例えば、菊地さんが名作吸血鬼映画の第一号だと仰る、そして私もその幻想的な映像に
釘付けになった覚えのある『ノスフェラトゥ』や、ホラー映画で多くのファンを持つという
ハマーフィルムの作品など様々な映画を列挙して下さっていて、とても参考になりました(^^)v

吸血鬼ノスフェラトゥ

吸血鬼ノスフェラトゥ

  • 出版社/メーカー: WHDジャパン
  • 発売日: 2006/09/15
  • メディア: DVD

ハマー・フィルム怪奇コレクションDVD-BOX ~吸血!モンスター編~

ハマー・フィルム怪奇コレクションDVD-BOX ~吸血!モンスター編~

  • 出版社/メーカー: エスピーオー
  • 発売日: 2002/11/08
  • メディア: DVD


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kurohani

吸血鬼とは何とも魅惑的なテーマですね!「フィリップ・ポの墓」がとても気になりました、、。
by kurohani (2007-01-22 22:26) 

megumi

書物の王国シリーズ*テーマが凄いですね。

ポーさま、アジア好きなんですね。

たしか横溝正史さま嫉妬していたのですよね。

ポウさまを嫉妬させた作品は、本陣殺人事件

だったとおもいます。

最後のモンスターBOX観たいです。

PS ミカエラさんドリアングレイの肖像は読みますか?*
by megumi (2007-01-23 00:06) 

ミカエラ

■kurohaniさん、こんにちは♪

フィリップ・ポに反応して下さって嬉しいです~。
エドガー・アラン・ポーには全く関係がない人物ですが(;^^)、
名前も似てるし、イメージに合っているかなと思って無理やり載せました(笑)
フィリップさん自体はあまり有名なお人ではないみたいですけれど、
個性的で立派なお墓ですよね。
1475年頃の作でルーヴル美術館にあります。
by ミカエラ (2007-01-23 16:10) 

ミカエラ

■megumiさん、こんにちは♪

>>書物の王国シリーズ*テーマが凄いですね。
↑ですよね(^m^) しかも私は特に凄いテーマの物から選んで読んでます(笑)

>>たしか横溝正史さま嫉妬していたのですよね。
↑そうなのですか~知りませんでした。
ポーの名前をもじった江戸川乱歩が新人発掘した横溝正史に対して、
ポーが嫉妬するなんて、面白いつながりですね(@。@)

>>PS ミカエラさんドリアングレイの肖像は読みますか?*
↑はい~、大好きです(^^)
ついでに、ヘルムート・バーガー様主演の映画も観ました。
あまり評判がよくないようですけれど、私にとっては宝物です。
http://www.amazon.com/Dorian-Gray-Helmut-Berger/dp/6300208214/sr=8-11/qid=1169535821/ref=sr_1_11/002-5765041-5474465?ie=UTF8&s=video
by ミカエラ (2007-01-23 16:10) 

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