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溝口健二監督の世界② 『山椒太夫』 『噂の女』 [溝口健二監督 *Movie]

黒澤明監督、小津安二郎監督と並び、日本映画の三大巨匠のひとりと言われる
溝口健二監督の没後50周年(昨年)に際して、いくつかの作品を鑑賞しました。
簡単な感想と共に、それらの作品の主人公たちをイメージした肖像画を選び、
載せてみましたので、そちらもどうぞご覧下さいませ。

『山椒大夫』  (1954年)

監督: 溝口健二
原作: 森鴎外
脚本: 八尋不二、依田義賢
撮影: 宮川一夫
出演: 田中絹代(玉木)、花柳喜章(厨子王)、香川京子(安寿) 他

* あらすじ *
平安朝末期。 農民を貧窮から救うべく上司に訴えるも左遷されてしまった平正氏。
7年後、妻・玉木は安寿と厨子王の子供たちを連れて、
正氏に会うべく旅に出ますが、途中で人買いにさらわれ、
玉木は遊女として、子供たちは丹後の大地主である山椒太夫のもとへ、
奴隷として売られてしまうのでした…。
安寿と厨子王の民話を、森鴎外が小説化したものをもとに作られた作品。
ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞作品。

                       ****

平安時代とは、現代よりもずっと安全な世だったのだろうと思いきや、
やはり、女子供のみの旅は危険に満ちていたのですね。
人買いが横行し、“奴隷”なんていうものが日本にもあったなんて知りませんでした。

尊い志を持った父親から「人はみな平等である。慈悲の心を忘れるな。」と
幼き頃より諭されてきた厨子王が、しかし父親の権威や地位があったからこそ、
つまり名家の出身であることによって、時の関白に上訴を聞き入れられ、
やがて奴隷を解放してゆくというわけですから少々皮肉にも感じました。

そしてなんと言っても田中絹代さん演じる玉木が、
岬で子どもの名を呼び続ける姿など、我が子への愛情とは、
なんと深く強いものなのか訴えかけてくる場面は痛烈です。
“人買い、人さらい”のシーンから、今、国家が抱えている重要な“外交問題”を
思い起こす方も多いようですね。
現在でも、親子が無残に引き離されて苦しんでいる日本人がいるということを忘れないためにも、
多くの人々がこの映画を観たらいいと思います。
そして、その方々が一日も早く、親子の再会ができますよう心から願って止みません。


ミレイ  『ロンドン塔に幽閉された王子たち』

幼いエドワード5世とヨーク公は、王位を狙う叔父のリチャード3世により、
ロンドン塔へ幽閉され、暗殺されたと伝えられています。
1674年に子どもの遺骨が発見され、ウェストミンスター寺院へ埋葬されましたが、
その後の鑑定によっても、ふたりの王子のものだという判定はできませんでした。


ポール・ドラローシュ  『ロンドン塔のエドワード5世とヨーク公』

こちらの絵はルーヴル美術館で見てきました。
ひっそり閑として暗い部屋の中で、鬼気迫る表情の王子と、
力なくうつろな瞳の王子が対照的なのと、はりつめた空気が感じられて、
とても心に残った作品でした。

『噂の女』  (1954年)

監督: 溝口健二
脚本: 依田義賢、成澤昌茂
撮影: 宮川一夫
出演: 久我美子(雪子)、田中絹代(初子)、大谷友右衛門(的場謙二) 他

* あらすじ *
女手ひとつで京都の置屋を切り盛りする初子と、
彼女の娘で東京で音楽を学び、婚約直前であったにもかかわらず、
自殺を図り実家へ戻ってきた雪子が同じ男性を愛してしまうという物語。

                  ****

伯爵家のお血筋という、世が世ならお姫様である久我美子さん。
この物語でも、繁盛している置屋の才気溢れるお嬢様を演じています。
“ローマの休日”のオードリー・ヘプバーンそっくりのヘアスタイルとファッションには、
ちょっと笑止(;゜∀゜)でしたが、当時はこれが至って真面目でモダンな
装いだったのかもしれませんね。

娘と自分の愛人が愛し合う仲となったことを知ったのち、
『物枕狂』という、老人がうら若き娘に恋するというユーモラスな狂言を観賞中の
笑いさざめく客席で、ひとり苦々しくいたたまれない思いで見ている初子が
気の毒でなりませんでした。

娘と同じ男性を愛してしまう苦悩と、女性としての盛りを過ぎようとする初子の焦燥感、
そして、初めは置屋という家業を嫌悪していた雪子が、
その世界でしか生きられぬ人々の日常を見つめていく中で、
その心が徐々に変化して行く様子などが見所といっていいでしょうか。


サージェント  『マダムX (ゴートロー夫人)』

女神ウェヌスの呪いにより、義理の息子イポリットを愛してしまうという、
“フェードル”の禁断の恋が思い浮かんだのですが、
その絵が見つからないので、置屋の女将・初子の肖像をイメージしてこの絵を載せました。

サージェントは上流階級の人々の肖像画を描き人気を博した画家ですが、
このフランスの銀行家夫人を描いた作品は、パリのサロンに出展するも、
露出度高く品性に欠けるという理由から批判されました。

しかし、前述の“イポリット”を描いた絵をどこかで見たはず、と画集を探していましたら、
イポリット・フランドランという画家が描いた絵の勘違いだとわかりました。


イポリット・フランドラン 『海辺に座る裸の青年』

しかし、見ようによっては、“義理の母に愛され苦悩するイポリット”
という風にも見えなくはないでしょうか!?(;^^)

イポリットの絵をさがしていたら、もうひとつステキな絵を発見(*゜∀゜*)!
サービスで載せときます♪ ↓


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溝口健二監督の世界① 『雪夫人絵図』 『雨月物語』 [溝口健二監督 *Movie]

今年は溝口健二監督の没後50年にあたるそうで、
TVで特集を組み、放映されていましたので、数作品を鑑賞しました。

溝口監督の作品は、悲哀に満ちた独特な女性像を描き出すことが高く評価され、
ヴェネツィア映画祭では銀獅子賞を2度受賞、
フランソワ・トリュフォーや、ジャン=リュック・ゴダール監督らを魅了したといいます。

簡単な感想と共に、今回はそんな彼の作品に登場する美しい主人公たちをイメージした、
肖像画も選んで載せてみましたので、どうぞご覧下さい。

雪夫人絵図

雪夫人絵図

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2006/08/26
  • メディア: DVD

『雪夫人絵図』  (1950年)
監督: 溝口健二
原作: 舟橋聖一
脚本: 依田義賢 他
撮影: 小原譲治
出演: 木暮実千代 (雪夫人)
     久我美子 (女中 濱子)
     上原謙 (菊中方哉)
     柳永二郎 (雪の夫 直之)
* あらすじ *
旧華族の出である雪夫人は、直之を婿養子として迎えましたが、
直之はほとんど家に戻らず、京都のキャバレーの女に入れあげる始末。
夫の放蕩三昧によって財産も底をつくような有様に陥ったため、
密かに慕っている方哉の勧めもあり、邸を料亭に改装し切り盛りするようになります。
しかし、夫・直之の放蕩癖は直らず、離婚の申し出も拒絶され、
更には夫の情婦に店を乗っ取られてしまうのでした。

                         ****

ある私の尊敬する著名人が、
「昔の日本の女優さんから、美しい言葉遣いと、立ち居振る舞いを学ぶことができる。」
とその著作の中で仰っており、その筆頭に挙げられていたのが木暮さんと久我さんでした。

お言葉通り、美しい方々で特に木暮さんは、匂いたつような艶のある日本美人です。

しかし、劇中の雪夫人は実に優柔不断で、弱弱しい性格で、更には驚くべきことに、
遊び放題で家庭を顧みない夫を心では憎みながらも、肉欲に打ち勝つことができず、
夫の体の求めに、心ならずも応じてしまうという矛盾に苦しんでいるのでした。

実に清廉な方哉という美青年に心を寄せながらも、
肉体は“太鼓腹の中年男”の思うがままにされているというところが、
妙になまめかしく、淫らさが更に際立つわけなのですね。
また、それが名家出身の身持ちの良い奥様であるというのも、
それに拍車をかけているのでしょう。


ダヴィッド画 『レカミエ夫人』


ジェラール画 『レカミエ夫人』

この映画の雪夫人のイメージは、レカミエ夫人。
彼女もまた、映画の雪夫人と同じく、夫に離婚を申し出ましたが許されず、
愛情のない結婚生活を余儀なくされたのでした。

しかし彼女は上記の自分の肖像画、しかもかなりの大きさのものを、
恋人に贈ったくらいですから、雪夫人と違って、もっとしたたかに生きた人だったのでしょう。

上はナポレオンの肖像画を多く描いたことで有名なダヴィッドの作品。
レカミエ夫人は当初ダヴィッドに肖像画を依頼したものの、
その作風が気に入らず、弟子のジェラールに再度作成依頼したのが下の作品で、
結果こちらの絵が実際に恋人に贈られました。

溝口健二 大映作品集Vol.1 1951-1954

溝口健二 大映作品集Vol.1 1951-1954

  • 出版社/メーカー: 角川エンタテインメント
  • 発売日: 2006/10/27
  • メディア: DVD

『雨月物語』  (1953年)
監督: 溝口健二
脚本: 川口松太郎、 依田義賢
撮影: 宮川一夫
出演: 京マチ子 (若狭)
     田中絹代 (宮木)
     森雅之 (源十郎)
* あらすじ *
戦国時代、ある農村の陶工の源十郎は、
暮らしを豊かにしようと、妻の宮木と子を残し、都へ商いにでかけます。
そこで出会ったやんごとなき姫君の若狭に、邸に招かれもてなされ、
契りまで交わしてしまうのですが、実は若狭は一族を滅ぼされた死霊であったのでした。
上田秋成の小説を基に脚色された作品で、ヴェネチア映画祭銀獅子賞受賞。

                     ****

ゴダール監督が「美しい映像に涙せずにはいられない。」と絶賛したという映画です。

え?モノクロなのに? な~んて意地悪を言いたくなってしまいましたが(;^^)
芸術家には、私たちよりも更に、白黒画面の中に鮮やかに色彩が浮かび上がってくるものなのでしょう。
しかし、有名な“霧の湖を小船が進むシーン”などは、まるで墨絵のような静寂さで、
幻想的な怪異小説に似遣わしい、名場面と謳われるのも頷ける怪しげな美しさでした。

舞いを舞う若狭が唄うかたわらで、能楽の音楽が流れて交じり合うというところも独特ですね。
また、彼の作品にはしばしば雅楽も使われます。
こんなところも、海外でもてはやされる理由のひとつであるでしょうか。

京マチ子さんの哀れな怨霊・若狭の姿、その妖艶ぶりには参りましたが、
対照的に、夫の身を案じ、身を振り乱して我が子を守ろうとする田中絹代さん演じる
妻・宮木の姿にも心打たれました(涙)

それにしても戦国の世を、貧しい農民たちは、生き延びるために、
なんという悲惨な苦労したのか…><
戦が始まると、武士たちによる、罪もない村人たちへの暴力や略奪が行われ、
女子供が逃げ惑うという、凄惨な地獄絵図のような場面には、
あまりにも衝撃的で言葉もありませんでした。

まあこれらは下級武士の仕業なのでしょうけれど、時代劇で見られるような、
華やかに剣を振りかざしている武士同士の戦いの裏で、
こんな陰惨な実態もあったのかと思うと、
英雄扱いされている歴史上の名だたる武将たちが憎々しく思えてきます。

そして、この容赦なく過酷な世界を見せつけるというところが、
この監督の美学のような気がします。

妻の宮木が案じたとおり、
身の程をわきまえず、欲をかきすぎると、今もてる全てをも失うことになる…
という教訓が込められたお話でもあったでしょうか。
幻想的なおとぎ話と、壮絶な実話、夢と現実が交錯する不思議な映画でした。


クラナハ画 『ユディト』                 クリムト画 『ユディトⅡ』

京マチ子さん演じた若狭姫の姿は、ユディトを連想させます。

ふっくらとした輪郭と、キリリとした目元、そして流れおちる長い髪が、
クラナハの描く女性像と見た目がよく似ていますし、
クリムトのファム・ファタール的な女性像は、男を虜にし、
自らが住む世界に引きずり込もうとする、まさに若狭のイメージである思いました。

そしてまた、敵の武将を誘惑し、寝首をかいたという寡婦ユディトには、
哀婉さを感じるところがあり、それは、一族滅亡に追いやられた死後も幸せを求めた、
若狭の憐れな姿にも通ずるものがあると思うのです。


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