溝口健二監督の世界① 『雪夫人絵図』 『雨月物語』 [溝口健二監督 *Movie]
今年は溝口健二監督の没後50年にあたるそうで、
TVで特集を組み、放映されていましたので、数作品を鑑賞しました。
溝口監督の作品は、悲哀に満ちた独特な女性像を描き出すことが高く評価され、
ヴェネツィア映画祭では銀獅子賞を2度受賞、
フランソワ・トリュフォーや、ジャン=リュック・ゴダール監督らを魅了したといいます。
簡単な感想と共に、今回はそんな彼の作品に登場する美しい主人公たちをイメージした、
肖像画も選んで載せてみましたので、どうぞご覧下さい。
『雪夫人絵図』 (1950年)
監督: 溝口健二
原作: 舟橋聖一
脚本: 依田義賢 他
撮影: 小原譲治
出演: 木暮実千代 (雪夫人)
久我美子 (女中 濱子)
上原謙 (菊中方哉)
柳永二郎 (雪の夫 直之)
* あらすじ *
旧華族の出である雪夫人は、直之を婿養子として迎えましたが、
直之はほとんど家に戻らず、京都のキャバレーの女に入れあげる始末。
夫の放蕩三昧によって財産も底をつくような有様に陥ったため、
密かに慕っている方哉の勧めもあり、邸を料亭に改装し切り盛りするようになります。
しかし、夫・直之の放蕩癖は直らず、離婚の申し出も拒絶され、
更には夫の情婦に店を乗っ取られてしまうのでした。
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ある私の尊敬する著名人が、
「昔の日本の女優さんから、美しい言葉遣いと、立ち居振る舞いを学ぶことができる。」
とその著作の中で仰っており、その筆頭に挙げられていたのが木暮さんと久我さんでした。
お言葉通り、美しい方々で特に木暮さんは、匂いたつような艶のある日本美人です。
しかし、劇中の雪夫人は実に優柔不断で、弱弱しい性格で、更には驚くべきことに、
遊び放題で家庭を顧みない夫を心では憎みながらも、肉欲に打ち勝つことができず、
夫の体の求めに、心ならずも応じてしまうという矛盾に苦しんでいるのでした。
実に清廉な方哉という美青年に心を寄せながらも、
肉体は“太鼓腹の中年男”の思うがままにされているというところが、
妙になまめかしく、淫らさが更に際立つわけなのですね。
また、それが名家出身の身持ちの良い奥様であるというのも、
それに拍車をかけているのでしょう。
ダヴィッド画 『レカミエ夫人』
ジェラール画 『レカミエ夫人』
この映画の雪夫人のイメージは、レカミエ夫人。
彼女もまた、映画の雪夫人と同じく、夫に離婚を申し出ましたが許されず、
愛情のない結婚生活を余儀なくされたのでした。
しかし彼女は上記の自分の肖像画、しかもかなりの大きさのものを、
恋人に贈ったくらいですから、雪夫人と違って、もっとしたたかに生きた人だったのでしょう。
上はナポレオンの肖像画を多く描いたことで有名なダヴィッドの作品。
レカミエ夫人は当初ダヴィッドに肖像画を依頼したものの、
その作風が気に入らず、弟子のジェラールに再度作成依頼したのが下の作品で、
結果こちらの絵が実際に恋人に贈られました。
『雨月物語』 (1953年)
監督: 溝口健二
脚本: 川口松太郎、 依田義賢
撮影: 宮川一夫
出演: 京マチ子 (若狭)
田中絹代 (宮木)
森雅之 (源十郎)
* あらすじ *
戦国時代、ある農村の陶工の源十郎は、
暮らしを豊かにしようと、妻の宮木と子を残し、都へ商いにでかけます。
そこで出会ったやんごとなき姫君の若狭に、邸に招かれもてなされ、
契りまで交わしてしまうのですが、実は若狭は一族を滅ぼされた死霊であったのでした。
上田秋成の小説を基に脚色された作品で、ヴェネチア映画祭銀獅子賞受賞。
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ゴダール監督が「美しい映像に涙せずにはいられない。」と絶賛したという映画です。
え?モノクロなのに? な~んて意地悪を言いたくなってしまいましたが(;^^)
芸術家には、私たちよりも更に、白黒画面の中に鮮やかに色彩が浮かび上がってくるものなのでしょう。
しかし、有名な“霧の湖を小船が進むシーン”などは、まるで墨絵のような静寂さで、
幻想的な怪異小説に似遣わしい、名場面と謳われるのも頷ける怪しげな美しさでした。
舞いを舞う若狭が唄うかたわらで、能楽の音楽が流れて交じり合うというところも独特ですね。
また、彼の作品にはしばしば雅楽も使われます。
こんなところも、海外でもてはやされる理由のひとつであるでしょうか。
京マチ子さんの哀れな怨霊・若狭の姿、その妖艶ぶりには参りましたが、
対照的に、夫の身を案じ、身を振り乱して我が子を守ろうとする田中絹代さん演じる
妻・宮木の姿にも心打たれました(涙)
それにしても戦国の世を、貧しい農民たちは、生き延びるために、
なんという悲惨な苦労したのか…><
戦が始まると、武士たちによる、罪もない村人たちへの暴力や略奪が行われ、
女子供が逃げ惑うという、凄惨な地獄絵図のような場面には、
あまりにも衝撃的で言葉もありませんでした。
まあこれらは下級武士の仕業なのでしょうけれど、時代劇で見られるような、
華やかに剣を振りかざしている武士同士の戦いの裏で、
こんな陰惨な実態もあったのかと思うと、
英雄扱いされている歴史上の名だたる武将たちが憎々しく思えてきます。
そして、この容赦なく過酷な世界を見せつけるというところが、
この監督の美学のような気がします。
妻の宮木が案じたとおり、
身の程をわきまえず、欲をかきすぎると、今もてる全てをも失うことになる…
という教訓が込められたお話でもあったでしょうか。
幻想的なおとぎ話と、壮絶な実話、夢と現実が交錯する不思議な映画でした。
クラナハ画 『ユディト』 クリムト画 『ユディトⅡ』
京マチ子さん演じた若狭姫の姿は、ユディトを連想させます。
ふっくらとした輪郭と、キリリとした目元、そして流れおちる長い髪が、
クラナハの描く女性像と見た目がよく似ていますし、
クリムトのファム・ファタール的な女性像は、男を虜にし、
自らが住む世界に引きずり込もうとする、まさに若狭のイメージである思いました。
そしてまた、敵の武将を誘惑し、寝首をかいたという寡婦ユディトには、
哀婉さを感じるところがあり、それは、一族滅亡に追いやられた死後も幸せを求めた、
若狭の憐れな姿にも通ずるものがあると思うのです。
モノクロに関しては、、、同感です、、、
カラーが好きです。。。
私的にもクラナハさまの絵の方がきます。
京マチ子さまのメークは凄いです。同じ場面を長く映し出して
映像を進めて行く、撮り方なのですよね。ヌーベルバーグに
大きな影響を与えてと聞いた事があります。
by megumi (2006-12-25 03:58)
■megumiさん、こんにちは(^^)
>>モノクロに関しては、、、同感です、、、
カラーが好きです。。。
↑megumiさんはいつもカラフルで綺麗な画像を、
ブログにたくさん飾ってらっしゃいますものね~♪
モノクロにも良さがあるのでしょうが、私は色を識別できないと、
窮屈に感じる場合があります…想像力に乏しいせいでしょうか(;゜∀゜)
>>同じ場面を長く映し出して
映像を進めて行く、撮り方なのですよね。
↑そうですね、『山椒大夫』という映画で知ったのですけれど、
監督は“絵巻物のような映像を作りたい”と仰っていたと聞きました。
この映画で、それが特に感じられるのは、舟に乗って出稼ぎにゆく源十郎を、
妻の宮木が岸辺から小走りに見送るシーンでした。
>>京マチ子さまのメークは凄いです
↑何年も前に、初めてこれを見たときは凄~く怖かったのですが(笑)
今回見たら可愛らしさも感じました(*^^*)
by ミカエラ (2006-12-25 18:34)
そうなんです。写真は、モノクロOKなのですが、、、
映画はカラーでないと、、、と思ってしまうのです。
絵にも言えます。水墨画より若冲さまとかのが、すきです。
by megumi (2006-12-28 06:15)
■megumiさん、こちらにもどうもです♪
>>写真は、モノクロOKなのですが、、、
↑そうですよね、モノクロでも雄弁な写真もたくさんありますねv
モノクロの写真が綺麗だな~と思う私のお気に入りの写真家さんは、
David VasiljevicとGreg Kadelです。
ファッションフォトグラファーの記事を書かれるmegumiさんですから、
もうご存知かと思いますが、念のためサイトを紹介しておきますね(*^^*)
http://www.davidvasiljevic.com/
http://www.gregkadelstudios.com/
>>水墨画より若冲さまとかのが、すきです。
↑先日の若冲展でも水墨画がいくつも展示されていましたが、
どうしてもカラフルで鮮やかなほうに目が行ってしまうんですよね(;^^)
…まあ、水墨画に漂うのであろう“わび、さび”が分かるようになるのは、
もう少し歳をとってからでもいいかな~なんて思います(笑)
by ミカエラ (2006-12-28 17:19)
きゃー::うれしいです、、、
ありがとうございます。。。greg kadelのムービ
素敵です。。。。今、、、観ていました。。。
私の方こそ。。。ミカエラさんとお友達になれてよかったです。
素敵なモノを沢山もっていて
色々勉強させて頂いています。。。
来年もよろしくお願いいたします///
by megumi (2006-12-29 10:03)
■megumiさん、こんにちは♪
>>greg kadelのムービ
素敵です。。。。今、、、観ていました。。。
↑喜んでいただけてよかったです^^
しかし動画は気が付きませんでした(;^^)
写真だけでなく映像の才能もあるのですね、ますますファンになりました。
megumiさんのブログは素敵ですよ~。
短い文章の中に、簡潔に伝えたいことが詰まっていて、
独特のリズムを持った、美しい言葉遣いがとても魅力的です。
これからも、頑張って下さいね(^^)
私もこれからは、うだうだ書かずに、スッキリした文章で表現できるよう、
megumiさんを見習います!(できるかな~(;^^))
ということで、こちらこそ来年もよろしくお願いします~♪
by ミカエラ (2006-12-29 18:41)