ルドンの黒 ~目をとじると見えてくる異形の友人たち~ [美術*Art]
Bunkamuraザ・ミュージアムで、
『ルドンの黒~目をとじると見えてくる異形の友人たち』を観てきました。
黒を基調とした館内は、ひんやりとしていて、
ポロンポロンというピアノの音色が、
どこからともなく聴こえて来るところもなんだか心地よくて、
外界の息もつけぬような熱気をひととき忘れさせてくれたのでした。。。
ルドンは印象派のモネやルノワールと同時代の画家である。
印象派の画家たちが大気現象の変化ともに刻々とその様を変える自然界の
色彩の変化の妙に魅せられ、現実界の昼の光の表現に没頭していたとき、
ルドンは対照的に光と影の対比が心理的不安を醸し出す黒一色の世界に沈潜していた。
~ 作品カタログより抜粋 ~
ルドンはフランスのボルドーの裕福な家庭に生まれますが、
生後2日にして乳母の手に委ねられた後、
ルドン家の別荘で荘園のある、ペイルルバードという田舎に送られ、
11歳を迎えるまで、管理人である親戚の老人に育てられるという生活を送りました。
ルドンによる黒一色で描かれた、神秘的で孤独を感じさせる奇異な作品は、
彼のこの生い立ちの環境によるものとも、また、自らも従軍した普仏戦争によって、
フランスがプロシアに敗北したという、当時の時代の不安感が、
少なからず影響しているのであろうとも言われています。
以下、チラシに載っている作品を中心に、いくつかご紹介したいと思います。
『夢の中で』Ⅹ.皿の上に 1879年
いわゆるルドンの黒い絵の中では、私が一番好きな作品。
ひと目見たときは、卓上のリンゴをイメージしたのかと思いましたが、
どうやら聖ヨハネの殉教からインスピレーションを得ているようですね。
もしくは、このヘルメットが当時フランスと戦っていたプロシア軍のものに似ているらしいので、
ゴリアテを討ったダヴィデよろしく、敵将の首を獲った気分を表したものかなとも思えます。
↑本当に気に入ったので、額入りの絵を購入。
おどろおどろしいのだけれど、大きく見開いた眼が可愛い、私のリンゴ坊や♪(笑)
『エドガー・ポーに』Ⅰ 眼は奇妙な気球のように無限に向かう 1882年
1878年のパリ万博での、気球を使ったアトラクションが霊感源であるらしいそうで、
ルドンの目玉を描いた作品は大概このように、上方を向いているのが特徴的ですね。
それから、この絵を使った、キャドセンター製作による、CGムービーがとても楽しかったです!
ふわふわと浮かぶこの気球が、載せている人の首を、途中で落としちゃったりするのですよ。
ブラックだけどユーモラスで、ひととき不思議な世界に浸ることができました。
『起源』Ⅲ 不恰好なポリープは薄笑いを浮かべた醜い一つ目巨人のように岸辺を漂っていた 1883年
これも怖いけれど、どこか可愛らしい怪物君で、
水木しげるさんの描く妖怪を思い起こさせやしないでしょうか。
一つ目の怪物と言えば、ルドンは一つ眼巨人(キュプロークス) の絵も描いていますね。
そちらは彩色が施してあって、夢幻的な印象です。
『ゴヤ頌』Ⅱ 沼の花、人間の悲しげな顔 1885年
三島由紀夫曰く“デカダンスの聖書”であるという、
ユイスマンスの『さかしま』の表紙の絵としても知られていますね。
こういう、ありえないところに“顔”があるという発想はとても好きです。
太陽に顔が描いてあるものとか、機関車トーマスとか、
それから、『不思議の国のアリス』のジョン・テニエルの絵を、
子供のときに初めて見たときの恐怖が蘇ってくる感じです。。。
首の周りの輝いている部分が襟のレースにみえたりして、
この展覧会を観るまでは、私にとってはこの絵は道化のイメージでした。
ところで、この『さかしま』の主人公である、
デ・ゼッサントを描いたものも今回の展示にありまして、
俗世に嫌気がさした、うつろな眼差しで、
いかにも気鬱そうな気質をよく表していて素晴らしかったです。
蜘蛛 1887年
私はもともと蜘蛛が好きなので、この絵のチラシをみかけたのがきっかけで、
この展覧会に行くことに決めたのでした(^^)
このふわふわの毛並みの感触は、実物をご覧にならないとわからないかも。。。
これもやはり、キャドセンターによってCG化されておりまして、
チョコチョコ動き回るクモくんを見ることができて嬉しかったです。
『夢想(わが友アルマン・クラヴォーの思い出のために)』Ⅵ.日の光 1891年
クラヴォーは植物学者であり、ルドンに深い影響を与えた人物でした。
ルドンがこの学者によって顕微鏡下のミクロの世界を知ったというところも、
彼の作品中に神秘の生き物たちを息づかせることとなった一因なのでしょうか。
これは、亡くなった知己の友クラヴォーのために捧げた作品のひとつで、
主の居なくなった部屋から、かつて眺めた木立を懐かしんでいるかのようにみえます。
そして、左上から下にかけて、霊魂のようなものが漂っているのですよね。
誰も居ないようにみえて、実はルドンには友の存在が感じられていたのかもしれません。
穏やかな愛情を感じる奥深い作品で、とても素敵だなと思いました。
薔薇色の岩 1880年
ルドンは“黒”の画家として知られていた間にも、
油彩で描いた風景画の小品を製作していたそうです。
一見すると、同時代の印象派の画家の作風と同じく見えるのですけれど、
ルドンの風景はとにかく寂寥たるものがあって、まったく人の気配が感じられません><
青い花瓶の花々 1904年頃
1890年代から、ルドンが“黒”から色彩を用いて製作するようになったのは、
結婚して息子のアリが生まれ、彼の作品を収集するコレクターが現れたことから、
生活が安定してきたことが理由だという説もあります。
同じく黒い絵の画家として知られ、比較されることの多いゴヤとは対照的に、
ルドンは晩年に幸福な家庭を築き心の安寧を得られたことは、
幼い時分に他の兄弟たちとは違って、
母親の愛情を充分に感じることができなったであろうことを思うと、
本当に救われる思いがしました。
ルドンは晩年に、それこそ花がひらいたように、
それまで白黒の禁欲主義のうちに圧縮していた色彩を、
パステル画によって一挙に開放した。
これは奇妙な方向転換のように思われるかもしれないが、
決してそうではなく、黒の中に潜在的に含まれていたあらゆる色彩を、
ただ解き放っただけにすぎないのである。
~ 澁澤龍彦 『幻想の彼方へ』より抜粋 ~
ところで、会場の出口のところで、
「あなたにとって“黒”とは何ですか?」というアンケートを求められまして、
語彙や想像力に乏しい私は、
「ファッションの基本」なんていう、貧相な発想の回答をしてしまいました。
もう少し、考えて答えを出せばよかった、と後悔。。。
例えば、黒ミサとか黒魔術とか! …それも単純だなぁ(T_T)
もしくは直接的でなくてイメージするものとして、
陰謀とか談合とか汚職とか! …現実的すぎ(笑)
ならば、世紀末文学とかサヴォナローラとか。。。
しかしまあそんな程度しか思い浮かばないのでありました(T▽T)
林檎首が怖くも可愛いです♪蜘蛛がCGで動くのも面白そうです。ルドンの晩年のカラー作品しか知らなかったのですが、初期の白黒作品とってもお洒落ですね。ちょっとエドワード・ゴーリーを思い出したりして。サヴォナローラってドメニコ会の怖い人でしたっけ?
by kurohani (2007-08-16 09:55)
■kurohaniさん、こんにちは♪
>>蜘蛛がCGで動くのも面白そうです
↑本当によく出来ていました。
いい時代に生まれたな~と感慨深いものがありました。
公式サイトで一部その動画を見ることができます。
>>初期の白黒作品とってもお洒落ですね
↑そうですよね^^ 館内もモノトーンでまとめられていて、
なかなかオシャレなインテリアでしたよ~。
こちらも公式サイトで館内の様子を覗くことが出来ますので、ぜひご覧下さいませ。
>>サヴォナローラってドメニコ会の怖い人でしたっけ?
↑フィレンツェで峻烈な説教をして人心を捉え、改革しようとした人ですよね。
いつも着ているあの僧服の色から“黒”を連想したのでした(;^^)
>>ちょっとエドワード・ゴーリーを思い出したりして
↑ご紹介ありがとうございます! 初めて知りました。
作家さんでもあるのですね。グロテスクと可愛らしいの組み合わせが似てますね♪
実は私が最初に連想したのは、梅図かずおさんの恐怖マンガでした(笑)
by ミカエラ (2007-08-16 17:09)
面白い絵ですねー。
怖いのにタッチが柔らかい感じだからか
どこかやさしい感じがします。
19世紀末のフランスに行ってみたいです。
by Camel! (2007-08-17 23:07)
■Camel !さん、こんにちは(^^)
せっかくコメント下さいましたのに、お返事が大変遅くなりまして、
本当に申し訳ございませんでしたm(_ _)m
旅行で留守にしたりしたものですから、
ついでにしばらくお休みさせていただいております。
>>怖いのにタッチが柔らかい感じだからか
どこかやさしい感じがします
↑おお、なるほど。
そういえば、フワフワとぼかして描いてありますものね、
そのあたりが優しい印象を与えている一因ですね(^^)
この度は、ご訪問ありがとうございました。
私も後ほどお伺いさせていただきますのでよろしくお願いいたします~。
by ミカエラ (2007-09-04 20:26)