SSブログ

ヴィスコンティ生誕100年 [映画 は行 *Movie]

今年はイタリア映画界の巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督の生誕100年、没後30年だそうで、
昨夜からNHK BS-2で、同監督作品の特集が始まりました。
私は数年前のやはり同局でのヴィスコンティ特集で、『ベニスに死す』を初めて観たときから、
この監督の描く世界と、ヘルムート・バーガー様の大ファンになったものですから、
懐かしい思いで胸がいっぱいです。

夏の嵐

夏の嵐

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2006/09/30
  • メディア: DVD

11月21日(火) 午後8:00~9:56 『夏の嵐』

原作はカミッロ・ボーイドの小説『官能』。
オーストリア占領中のヴェネツィアで、貞節な伯爵夫人であるリビアが、
若く美しいオーストリア将校マーラー中尉と出会い、恋に落ちるというストーリー。

恋に落ちるというよりは…我を忘れて恋に溺れたリビアの成れの果てが憐れで哀しい、
ヴィスコンティ自身も大好きだというメロドラマですね。
また、同監督の初めてのカラー映画だという舞台、映像もとても美しく、
特に冒頭のオペラ上演中の劇場でのシーンが豪華絢爛で見とれてしまいます。

ここで流れるオペラ『イル・トロバトーレ』の力強いアリア“あの火刑台の恐ろしい炎が”は私の大のお気に入り♪

エッセンシャル・ホセ・カレーラス

エッセンシャル・ホセ・カレーラス

  • アーティスト: プッチーニ, レオンカヴァルロ, ドニゼッティ, ヴェルディ, ダンニバーレ, ラミレス, ララ, バーンスタイン, ディ・カプア, カルディッロ, トスティ
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 1996/06/05
  • メディア: CD

衣装担当のピエロ・トージさんは、オーストリア王妃エリザベートの肖像を
手本にしたのではないかと思われる星型の髪飾りなど、リビアの華麗な装い、
そして青年将校マーラー中尉の白いマントを颯爽と翻して着こなす軍服姿にも注目です。


ヴィンターハルターによる オーストリア皇妃エリザベートの肖像

この映画は、2004年に、ティント・ブラス監督によって『ティント・ブラスの秘蜜』という作品で
リメイクされました。
こちらの方が、まさしく“官能”的(過ぎ!?)に仕上がっています…なにせティント先生ですから(;^^)
でも私のとってはこちらもお気に入りの映画です♪

ティント・ブラス 秘蜜~ヘア解禁版~

ティント・ブラス 秘蜜~ヘア解禁版~

  • 出版社/メーカー: ハピネット・ピクチャーズ
  • 発売日: 2004/11/10
  • メディア: DVD

ルートヴィヒ 復元完全版 デジタル・ニューマスター

ルートヴィヒ 復元完全版 デジタル・ニューマスター

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2006/07/29
  • メディア: DVD

11月23日(木) 午後8:00~午前0:00 『ルートヴィヒ』

19世紀、バイエルン国王として実在したルートヴィヒ2世。
18歳で国王に即位し、40歳で謎の溺死を遂げ、“狂王”と呼ばれたその生涯を描いたもので、
『地獄に堕ちた勇者ども』、『ベニスに死す』とともに“ドイツ三部作”の最後の作品です。

私が今のところ、最も好きな映画です。多分今後もこれを越えることはないでしょう。

ルートヴィヒは戦争が嫌いで、贅を尽くした城をいくつも築き、
国費を濫費したために糾弾されてしまいましたが、
現在ではその城によって、少なからず国を潤していることでしょうから皮肉なものですね。

撮影では実際のノイシュバンシュタイン城内、そしてその調度品もそのまま使われていて
とにかく豪華です。

そしてこの映画は、ワーグナーの音楽なしには語れないですよね、
実際にルートヴィヒと親交のあった彼の音楽が全編で使われることで、
いっそうルートヴィヒに近づいて、その人柄に触れられたような気がしてきます。

この映画によって、私は一時期ワーグナーばかり聴いてました。
“ワーグナーの音楽には魔力がある”と、よく言われますよね、
まさに私もその魔力に魅了されてしまったのでした。

タンホイザー序曲 / ワーグナー序曲、前奏曲集

タンホイザー序曲 / ワーグナー序曲、前奏曲集

  • アーティスト: ベーム(カール), ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団, ワーグナー
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 1997/09/05
  • メディア: CD

映画で使われているどの曲も素敵だけれど、私が特に好きなのは、
ルートヴィヒがリンダーホフ城内の洞窟の小さな泉を舟で遊覧している時の『夕星の歌』。
夢想家の彼が自分の世界に閉じこもってしまった極致の状態がよく表れていて、
破滅へと突き進んでしまう姿が切ないです、更にはそんな姿が少し滑稽でもあるのですよね(p_;)

この曲はなんともアンニュイなんですよね~、
アリアなら容易にCDを見つけることができたのですが、
オーケストラで演奏しているものはなかなかみつけられなかったです。

そして、最もお気に入りなのは『最後のピアノ曲 遺作』です。
これは、ヴィスコンティが映画に使いたくて譜面を探し出し再現したといいますから、
とても貴重ですよね。

ラストシーンで使われていますが、王の苦しみから解き放たれた安堵とともに、
不穏な空気を醸し出しているメロディで、“謎の死”にとても相応しい曲だと思います。

ヴィスコンティの選曲は本当に素晴らしい…
私は初めてこのシーンを見たときに、しばらく動くことができないほどの強い衝撃を受けました。

残念ながら今は廃盤となった『ルキノ・ヴィスコンティの肖像』というサントラ以外では、
私は収録されているCDをまだ見かけたことがありません。

ベニスに死す

ベニスに死す

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日: 2006/11/03
  • メディア: DVD

11月28日(火) 午後8:00~10:12 『ベニスに死す』

ドイツ人の高名な作曲家であるアッシェンバッハが、静養のため訪れたベニスで、
究極の美を体現したような少年タッジオと出会い、次第に心惹かれてゆくという物語。

初老の作曲家にとっては決して手が届かない美しい者への憧れ、諦観、絶望。
それらを観ているうちに、いつかは自分自身も経験するかも知れないという、
そこはかとない哀しみと恐れが湧いてきます。

これは私が初めて観たヴィスコンティ作品で、
「世の中にはこんなに詩情豊かな映画があるのか…。」
と、打ちのめされたのでした。

そして、その時は、初老のアッシェンバッハがなんとも惨めで醜く見えたものですが、
今は、「アッシェンバッハ(ダーク・ボガード)ったら、タッジオに近づきたいがために、
若作りなんてしなくても、とっても魅力的よ!」
…と思うようになったのは、私か歳を重ねた証拠かしら(;^^)

まあ、私のそんな感想はさておきまして…
老いに逆らうことができない作曲家アッシェンバッハと、ドナテッロのダビデ像のように、
生き生きと美しく、残酷な微笑を湛えたタッジオという、対極的な生が見所だと思います。

とにかくタッジオ役のビヨルン・アンドレセンの美しさは今でも至る所で謳われつづけていますよね。
この一作品で、映画界から姿を消したということも、彼の美貌を伝説的にしている所以であるでしょう。
ヴィスコンティがヨーロッパ中を探して数千人という候補者の中から選ばれたというアンドレセンの、
一瞬の(!)美しい姿を閉じ込めた貴重な作品ですね。

アッシェンバッハはまたしても、この人間の子の、
それこそ神に近い美しさに感嘆した、いや、驚愕したのであった。
                  …
その襟の上に、花の咲いたような首が、たとえようもなく愛くるしくのっている。
それは、パロス産の大理石のもつ淡黄色の光沢をおびた、エロスの神の首で、
細い落ちついた眉があり、こめかみと耳は、直角に垂れかかる捲毛で、
暗くやわらかくおおわれていた。

『ヴェニスに死す』(トオマス・マン作) より

また、この映画で使われたマーラーの交響曲5番(嬰ハ短調 第3部 第4楽章:アダージェット)も
その美しい旋律が映像にマッチして、忘れがたい印象を与えてくれました。

この映画のほかに、アラン・ヌーリーとレイモンド・ラヴロックが出演した『ガラスの部屋』や、
ユーハン・ヴィーデルベリ主演のスウェーデン映画『あこがれ美しく燃え』でも
使われていましたので、私にとってマーラーのこの曲は“美少年のテーマ”です♪

アダージョ・カラヤン・ベスト

アダージョ・カラヤン・ベスト

  • アーティスト: カラヤン(ヘルベルト・フォン), ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, マーラー, パッヘルベル, アルビノーニ, レスピーギ, ラヴェル, ホルスト
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 2002/09/25
  • メディア: CD

偉大なるヴィスコンティ監督について、私などが語るのは恐れ多いのですが、
イタリアの名家に生まれ、ミラノのスカラ座のパトロンとして桟敷席を所有していたこともあり、
幼い時分よりオペラや演劇など、一流の芸術に触れてきたために培われたのであろう美意識の高さと、世界遺産である城を借り切り撮影するなどの本物志向で、
作品に対する妥協しない姿勢が高く評価されているのでしょう。
また、一方では豪華絢爛な映像を作り、一方で庶民の貧しい生活風景を重視したところも面白いですね。
そしてやはり、美と醜、繁栄と没落の悲哀を描いたところも私には魅力的です。

今回のBS-2での特集は、上記作品のほかに、アラン・ドロン主演の『若者のすべて』や、
クラウディア・カルディナーレとジャン・ソレル演じる美しい姉弟の“秘密”がなんとも妖しく艶かしい
『熊座の淡き星影』等々も放送されますので、
詳しい放送内容と時間は公式サイト↓をご確認下さい(^^)
http://www.nhk.or.jp/bs/navi/movie_td.html


nice!(5)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 5

コメント 8

ダフネ

今日、ルートヴィヒ放映ですね。
録画の予約しました♪
ビデオは持ってるんですけど、DVDは持っていないので・・・。

楽しみです♪
by ダフネ (2006-11-23 13:48) 

megumi

星形の髪飾り@共感です。
すご^^い記事です:::読みふけってしまいました。
ありがとうございます。
by megumi (2006-11-24 03:21) 

ミカエラ

■ダフネさん、こんにちは♪

お持ちのビデオは2時間版でしょうか。
今回放送されたのは4時間の完全版ですから、
観るのに気合がいりますよね(;^^) 頑張って下さい(笑)
完全版は、側近の人々が王について“証言する”場面が追加されているので、
ドキュメンタリーさが加わって面白いんですよね。
しかし、さらにルートヴィヒの孤独が浮き彫りになるようで哀しいです(涙)
by ミカエラ (2006-11-24 16:01) 

ミカエラ

■megumiさん、こんにちは(^^)

星型の髪飾りについて共感して下さって嬉しいです~。
とてもよく似てますよね。
発見当時は、どなたかの共感を得たくて、あちらこちらで言いまわってました(笑)
こんなに豪華な髪飾りをして、伯爵夫人としてなんの不自由もない生活を送っていたリヴィアが、
マーラー中尉に出会ったことで堕ちてゆく悲哀がみどころですね。
by ミカエラ (2006-11-24 16:03) 

kurohani

初めまして、megumiさん経由で伺いました。「ルードウィッヒ」が大好きなので思わずコメントします。彼のアート狂いで戦争嫌いの所に激しく共感してしまいまして(笑)本当にロケがノイシュバンシュタイン城なのですか!「ヴェニスに死す」も良いですね〜。
by kurohani (2006-11-26 00:51) 

ミカエラ

■kurohaniさん、はじめまして、こんにちは(^^)
お越しくださってありがとうございます~。

>>彼のアート狂いで戦争嫌いの所に激しく共感してしまいまして(笑)
↑美しいものを愛して平和を好む…決して悪いことではないのですけれどね(;^^)
時代背景もあって、君主としてはそれでは済まされない状況に置かれていたのでしょうね。
王が寵臣に、“自由”についてとくとくと言い聞かされるシーンがそれを表しています。
ノイシュバンシュタインの他にも実際のリンダーホフ城内や、
ヴェルサイユを模したヘレンキームゼー城の“鏡の間”なども出てくるのですよ~、
とっても豪華です♪
by ミカエラ (2006-11-26 18:31) 

杉原 啓史

ヴィスコンティ監督が渾身の力を込めた4時間の大作だが、監督は単純に耽美主義的に「狂王ルードヴィヒ」を描いているだけではない。この一作に4時間という時間をかけたのは、ドイツを始めとするヨーロッパ人の自らの歴史に関する深い愛憎、怨念のようなものを塗りこめたかったからに違いない。
ともあれこの映画の主たるストーリー・・・バイエルン王ルードヴィヒのご乱行・・・が進行する時代はドイツ史上でも最も重要な時期、「遅れたドイツ」が新興プロシャのビスマルクの豪腕により始めて一つになる時期なのである。(拙著「映画で楽しむ世界史」110章で詳述)
by 杉原 啓史 (2006-11-28 19:57) 

ミカエラ

■杉原啓史さん、はじめまして、こんにちは(^^)

ヴィスコンティは幼い頃からドイツ語を勉強していたということですし、
ドイツ文化には深い関心と理解があったようですね。
ルートヴィヒを“偉大なる敗北者”と呼んでいて、とても愛していたことが伺えます。
とにかく、監督の生前時には2時間ほどに縮小せざるをえなかったものを、
その後のスタッフの尽力によって、現在は各地でオリジナル版で
上映できることになって良かったですね。
きっと天国で喜んでいらっしゃることでしょう(^^)

『映画で楽しむ世界史』、素晴らしいテーマですね、興味深いです。
そのように、深く研究されていらっしゃる方にご訪問いただきまして光栄です。
ありがとうございました。
by ミカエラ (2006-11-29 17:13) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。